「ありがとう、ヴァイオレット。」

こんにちは、タロスケです。
皆さん『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』はご覧になりましたか?

見てない人はこのブログを閉じて、見に行ってください。
アニメ見てなくても、単発で理解の追い付く内容になっています。
変に1-3話くらいだけ見てしまうと主人公の成長に戸惑うと思うので
5,6,7,10話辺りを見てから行くとより良いかもしれません。
とにかく見に行ってください。
僕からのお願いです。京アニを応援しましょう。

www.violet-evergarden.jp


それにしても物語の奥行きがスゴいですね。
気付けたところはほんの一部なような気がしてなりません。
皆さんの言語化もお待ちしています。

さて、ここからは外伝のネタバレを含みますので注意してご覧ください。
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血のつながらない妹を守るために、名前も過去も全て捨てる姉。
美しい姉妹愛でしたね。
寿美菜子さん、陰のある女の役が上手すぎるやろ。

エンドロールの
エイミー・バートレット 寿美菜子
だけで号泣しました。
公式HPは当然イザベラ・ヨークなので、ハッとさせられる。

前半は、ヴァイオレットがサブヒロインに突き放されるところから、
次第に打ち解けていくといういつも通りの流れ。
蝋燭の長さで二人に残された時間を象徴すると同時に、
アニメ版から続く、ニュートラルな視点を描く火の音(アニメではガス灯の音)がとても印象的でしたね。

【追記】ラストシーンでエイミーが眼鏡をかけている理由については原作の外伝を読んでください。

さて、この作品でキーワードとなるのは
「光と影」・「鳥」・「三つ編み」・「星々の物語(アニメ6話)」
でしょう。
順に見てまいります。

A光と影
京アニお得意の「光と影の描写」。とても印象的でした。
響けの2期4話でみぞれがデカリボン先輩に引き上げられる、あの描写のような。外の明るい開けた世界の象徴としての光の描写です。

エイミーは基本的にずっと陰の中にいます。
光に触れる、触れようとするのは
1.朝一でヴァイオレットと友達になるシーン
2.遅刻しそうな森の中で木漏れ日に手を伸ばすシーン
3.デビュタント当日の「エスコートしてくださいますか」
(3.5デビュタントの扉が開くシーン)
4.ヴァイオレットが帰った後、Ms.ランカスターとの会話
5.テイラーからの手紙を受け取った後


それぞれの間にまた陰に戻っているというのがポイントで、
1の後はパンケーキの夢で涙を流し
2の後はヴァイオレットの「どこにも行けませんよ」で手を引っ込め
3の後は日の出とともに光に包まれるヴァイオレットを見送り、背を向けて”僕の牢獄”の中に戻っていく。(話はそれますが、門を檻に見立てるの大好きですね。響け2期の9話、あすか先輩が香織先輩に靴ひもを結ばれるシーンを見てください。)
4の後は結婚し、ヨーク家からも隠されて深窓の令嬢として表の世界から隔絶されます。

うーん、業が深い。でもまあ現実はこんなもんなのかもしれない。
ちょっとやそっとで前向きになれるほど、人間は単純にできていない。
そういう意味では非常に人間らしいサブヒロインだったなと思います。

5で手紙を受け取ったシーンは、日傘の中にいるだけでなくしっかり陰の中にいるのが徹底していますね。(その後の線路際のヴァイオレットは日傘の中ながら、影の中にはいません。
【追記】ちなみにこのシーン、風に草原がなびくシーンですが、「傘があれば、風の精の力を受けて、空を飛ぶことが出来るんだ」そうです、7話の劇作家の回の脚本を回収してヴァイオレットを世界を駆ける存在として、輝かせています。)

何度も踏み出すきっかけをもらっていても、最後に決めるのは自分自身。
結局エイミーを解き放てるのはテイラー、”彼女の人生に残された唯一の素晴らしいもの”だったということです。


B
アニメ版から鳥は「世界を駆ける広い世界の象徴」として描かれてきました。
7話では最終的には傘に焦点が当たりましたが、「水鳥で帰ってくる」という描写があり、鳥は広い世界の象徴でした。
今回も「遠く、どこへでも行けるもの」として描かれています。

終盤のテイラーの回想の中でエイミーに手を引かれ、白鳥へと手を伸ばすエイミーを思い出すシーンがありますが、
これは鳥が、姉妹の中に確かに通じるものであることを示しています。

しかしここで決定的に違うのは
エイミーはテイラーという鳥を「自由の空に放した」と感じている
テイラーはエイミーという鳥が「遠くの世界へ行った」と感じている
という点です。

だからこそ
エイミーがデビュタントの前に「どこにも行かないでね」とヴァイオレット(世界を自由に駆ける存在)に声をかけるシーンでは、窓の外を鳥が羽ばたくし、デビュタントのさなか、天井に描かれた一羽のカモメを見て諦観たっぷりに目を閉じます
先述の光と影の3の後、デビュタントという光からまた陰に戻る、というのは正確にはこのシーンです。
エイミーにとっては、自分を犠牲にしてテイラーに未来を与える”復讐”なのですから、テイラーとともに飛ぶことは叶いません

しかしテイラーの回想は白鳥が2羽連なって飛ぶシーン。
鳥はあくまで”遠くの世界”であり、いつか一緒に飛び、先に行ってしまった鳥には追いつけると信じて止まないのです。
冒頭の船のシーンで、空を駆けるカモメに手を伸ばすのは、郵便配達人という世界を広げる自分の夢を象徴すると同時に、
自分を離れて遠くの世界へ行った姉を重ね、再会への願いが示唆されています。


C三つ編み
多くは語るまい。
ヴァイオレットがテイラーに告げた
「2つでは解けてしまいますよ。3つを交差して編むのです。」
というセリフにつきます。
人と人を繋ぎ止める3つ目としての手紙。
ヴィオレットはエイミーが言うように「いつもその髪型」の三つ編みですし
エイミーも最後のシーンで三つ編みを顕にしています。
全編を通して3人が三つ編みなのが非常に心に刺さります。

【追記】ていうか今日3回目見てきたんですけど、カトレアもエリカも三つ編みじゃないっすか。アイリスはネックレスの意匠が三つ編みかな?


D星々の物語
皆さん6話覚えてますか?
天文台で200年に一度のアリー彗星を見る話です。
親に置き去りにされたリオンが、ヴァイオレットとの邂逅を通じ、
”閉じ込められていた扉”を蹴破って、外の世界へ活躍の場を移すことを決意する話でした。
少佐への感情が愛であることを指摘される唯一の回でもあるのですが、その話は割愛。

今回の外伝ではエイミーに寝物語として、テイラーには屋上の上で星々の話が語られます。
もちろんどの星座の話かは分かりませんが、6話を意識していることは明確です。

そして6話の彗星と言えば
「その別離は悲劇にあらず、
永遠の時流れる妖精の国にて、新たな器を授かりて、
その魂は、未来永劫守られるがゆえに」

という記述が作中で2度、リオンとヴァイオレット双方の口から出て来ます。
そして物語の結びは
「閉じ込められていた扉の向こうに、歩き出す勇気を、彼女がくれたのだから。いつかきっと『どこかの星空の下で』

いつかどこかできっと会える。そしてそう願うことは悪いことではないということを、ヴァイオレットの心に深く刻み込んでいるエピソードであったということが分かると同時に、
無意識ながらに、姉妹の別離を慰めるヴァイオレット。という脚本の奥行きの深さを感じずにはいられません。



その別離は悲劇にあらず。
名前を変え、過去を捨てたとしても。
エイミー・バートレットからイザベラ・ヨークという新しい器を授かったとしても、
『君の名前を呼ぶ、それだけで二人の絆は永遠なんだ。』



                            (了)